新橋駅から歩いて9分、通りに面したガラス越しに銅色の仕込み釜が見えるのが、新橋で初めてビールの製造免許を取った醸造所KUNISAWA BREWINGです。看板には「SHIMBASHI CLASSIC LAGER」と掲げられています。

免許が下りたのは2022年4月1日でした。1階で造って2階で飲ませるブリューパブになっています。

造っているのは1971年創業の印刷会社です。コロナ禍でペーパーレス化が一気に進み、紙の仕事が細った会社が、新しい柱としてビールを選びました。

  • 印刷会社がなぜビールを造ることになったのか
  • マイクロブルワリーに向かないラガーをどう造っているのか
  • 7種類のビールはそれぞれどんな味なのか
  • 店はどこにあって、いつ開いているのか

それでは、KUNISAWA BREWINGについて詳しく紹介していきます。

KUNISAWA BREWINGとは

KUNISAWA BREWINGとは
※画像はイメージです

KUNISAWA BREWINGは、東京都港区の新橋にある醸造所です。運営は國澤麦酒株式会社で、同じ建物に本社を置く株式会社河内屋から2022年に生まれました。代表はどちらも國澤良祐さんが務めます。

河内屋は印刷会社です。設立は1971年10月で、いまは特殊加工に強い印刷会社として、広告代理店やグラフィックデザイナー、カメラマン、アーティストの仕事を受けています。

会社の歴史は江戸時代後期までさかのぼります。大阪と江戸の間を船で鉄を運ぶ仕事から始まり、江戸へ拠点を移してからは現在の白金あたりで馬具商を営みました。やがて瀬戸物屋や炭の仲買人と、港区の中で商いを変えながら続きます。

第二次世界大戦後に新橋で活字の母型を鋳造する会社を立ち上げ、1971年に総合印刷会社としてスタートしました。港区で商いを続けて約150年になります。

ビール造りのきっかけは、代表の國澤さんが20代前半にバックパッカーとして北米と南米を回ったときの経験です。現地でホームブリューイングに出会い、海外ではビール造りが日常の一部にあると知りました。

当時の日本は酒税法が改正されて地ビールが生まれ始めたころでしたが、個人が醸造所を開くにはまだ壁がありました。國澤さんは趣味としてホームブリューイングを続けながら、先代から印刷業を引き継ぎます。

転機は2020年です。コロナ禍でペーパーレスの波が一気に押し寄せ、ペーパークラフト事業が窮地に立たされました。事業の立て直しと多角化を急ぐなかで、印刷業で培ったクラフトマンシップと30年しまいこんでいたビール造りへの思いが結びつき、KUNISAWA BREWINGが立ち上がりました。

ブリューパブ「Arts & Crafts Kawachiya」が開いたのは2022年5月25日です。1階が醸造所、2階が客席という造りになっています。

醸造所名 KUNISAWA BREWING Co.(國澤麦酒株式会社)
併設するパブ Arts & Crafts Kawachiya
所在地 東京都港区新橋5-31-7 Kビルディング
製造免許 2022年4月1日(発泡酒)
パブの開店 2022年5月25日
代表兼ブルワー 國澤 良祐さん
母体 株式会社河内屋(1971年10月設立・印刷業)

KUNISAWA BREWING 3つの特徴

KUNISAWA BREWING 3つの特徴
※画像はイメージです

新橋には飲める店がいくらでもあります。わざわざKUNISAWA BREWINGまで歩く理由はどこにあるのでしょうか。

造り方と成り立ちに、ほかでは重ならない3つの特徴があります。

特徴1:本業は印刷。紙で培った手仕事をビールに持ち込んでいる

醸造所を持つ会社の本業は、飲食店や酒販店であることが多くを占めます。KUNISAWA BREWINGの母体は印刷会社です。

河内屋は「様々なクライアントから出される困難な要望に応えることで培われたクラフトマンシップを、ラガービールという新たなキャンバスで表現する」と書いています。難しい注文に応える技術をビールに置き換える、という筋立てです。

紙の仕事はビールの隣にも残っています。河内屋は2017年に文具ブランドKUNISAWAを立ち上げ、世界20か国以上で使われています。ブランドのロゴは八咫烏で、日本神話に出てくる三本足の烏が天・地・人を表します。

八咫烏は神武天皇が熊野の暗い道を抜けるときに金色に光って道案内をしたと伝えられ、導きの神として信仰されてきました。河内屋は八咫烏を、未来を明るく照らして世界を引っ張る人の象徴として掲げています。

八咫烏はビールの側にも引き継がれました。ラガーを寝かせる貯蔵タンクには八咫烏があしらわれていて、通りから見るとロゴが顔を出す向きに据えられています。店では文具ブランドKUNISAWAの商品も売っています。

特徴2:マイクロブルワリーに向かないラガーを、水平タンクで1か月以上寝かせる

ラガーは造るのに時間がかかります。タンクが長くふさがるため、小さな醸造所にとっては回転の悪い選択です。KUNISAWA BREWINGは不利を承知でラガーを主役に据えました。

理由は場所にあります。醸造所は「ラガービールを作るには比較的多くの時間が掛かるためマイクロブルワリーで作るにはあまり向いていません。しかし、新橋だからこそ、私たちは飲んでもらいたいのはラガービールである、と思いました」と書いています。

設備は600Lの仕込み釜と9基のタンクです。ラガー用には水平貯蔵タンクを用意しました。横に寝かせた形のタンクで、国内で使っている醸造所は数%にとどまります。

ラガー専用タンクでマイナス1℃の超低温に置き、約1か月以上かけて熟成させます。原料は麦芽100%とチェコ産ホップで、濾過をしません。

濾過を省くと、ビールの中に酵母や細かい成分が残ります。見た目は少し濁り、賞味の持ちは短くなりますが、麦芽と酵母の風味は厚いまま残ります。醸造所併設の店が無濾過を選べるのは、造った場所でそのまま注げるからです。

低温で長く寝かせてキレを出し、濾過を省いて風味を残す。相反する2つを同時に取りにいった造り方になっています。

特徴3:店の名前はウィリアム・モリスのアーツ&クラフツから取られている

パブの名前「Arts & Crafts Kawachiya」は、19世紀イギリスのアーツ&クラフツ運動から来ています。

運動を率いたウィリアム・モリスは1834年にロンドン郊外で生まれ、「美しいと思わないものを家に置いてはならない」と語りました。手仕事から生まれる自然に根ざした美しさを広め、近代デザインの父と呼ばれています。

店はモリスの精神を受け継ぎ、新橋のアーツ&カルチャーの発信基地として開きました。名前だけで終わっていません。2025年1月からは奥新橋のコミュニティラジオ「奥新橋Waves」の配信が始まり、街の人をゲストに迎えています。

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新橋で仕込む7種類の自家醸造ビール

新橋で仕込む7種類の自家醸造ビール
※画像はイメージです

自家醸造のビールは7種類です。ラガーを軸に、小麦のエールから9.9%のバーレイワインまで幅があります。

注ぐサイズは180ml、315ml、420mlの3つから選べます。180mlは中瓶の半分以下なので、7種類を少しずつ試しても量が膨らみません。苦みが8から61まで開いているため、小さいサイズで振れ幅を確かめてから好みの1杯を決められます。

度数と苦みの数値は、醸造所が出しているメニューに書かれているものです。

シンバシ クラシック ラガー:切れのよい苦みとなめらかさが同居する看板の一杯

店の看板にも名前が出ている定番です。チェコ産ホップをふんだんに使ったピルスナータイプで、伝統的な製法で造られています。

マイナス1℃で1か月以上寝かせた無濾過のラガーです。醸造所は味わいを「切れのよい苦みとなめらかでマイルドな味わい」と説明しています。アルコール分5.2%、苦みの指標となるIBUは35です。

項目 評価
コク ★★★☆☆
キレ ★★★★★
苦み ★★★☆☆
酸味 ★☆☆☆☆
甘み ★★☆☆☆

シンバシ クラシック ヴァイツェン:バナナのような香りが立つ小麦のエール

小麦を使ったエールです。醸造所は「バナナのような香りが特徴の小麦のエール」と書いています。

アルコール分5.5%、IBUは8で、7種類のなかで最も苦みが低い部類に入ります。苦みが苦手な人の入り口になる一杯です。

項目 評価
コク ★★★☆☆
キレ ★★☆☆☆
苦み ★☆☆☆☆
酸味 ★★☆☆☆
甘み ★★★★☆

シンバシ ペールエール:グレープフルーツのような香りでさっぱり飲める

ホップの香りを楽しむエールです。醸造所は「グレープフルーツのような香りでさっぱりとした飲み口」と説明しています。

アルコール分5.5%でIBUは30です。ラガーより少しだけ苦みが軽く、香りが前に出ます。

項目 評価
コク ★★★☆☆
キレ ★★★★☆
苦み ★★★☆☆
酸味 ★★☆☆☆
甘み ★★☆☆☆

シンバシ アイピーエー:フローラルな香りとガツンとした苦みが残る7.0%

7種類のなかで苦みが最も強いビールです。醸造所は「フローラルな華やかな香りとガツンとした苦み」と書いています。

アルコール分7.0%、IBUは50です。ラガーのIBU35と比べると、数値の上でも苦みがひとまわり大きくなります。

項目 評価
コク ★★★★☆
キレ ★★★☆☆
苦み ★★★★★
酸味 ★★☆☆☆
甘み ★★☆☆☆

シンバシ クラシックスタウト:濃厚で深いコクが出る黒ビール

ローストした麦芽を使った黒ビールです。醸造所は「濃厚で深いコクの黒ビール」と説明しています。

アルコール分6.0%、IBUは37です。ラガーより苦みの数値はわずかに高く、口当たりはずっと重くなります。

項目 評価
コク ★★★★★
キレ ★★☆☆☆
苦み ★★★★☆
酸味 ★☆☆☆☆
甘み ★★★☆☆

シンバシ ピーチエール:度数4.3%で桃の甘みが前に出る一杯

桃を思わせる甘みのあるエールです。アルコール分4.3%は7種類で最も低く、IBUも9にとどまります。

苦みと度数の両方が抑えられているため、ビールを飲み慣れていない人と一緒に行くときに選びやすい一杯です。

項目 評価
コク ★★☆☆☆
キレ ★★★☆☆
苦み ★☆☆☆☆
酸味 ★★★☆☆
甘み ★★★★★

エイジド バーレイワイン:1年半寝かせた9.9%。オークの香りが豊かに出る

1年半熟成させたバーレイワインです。醸造所は「1年半熟成させたオークの香りが豊かなバーレイワイン」と書いています。

アルコール分9.9%、IBUは61で、度数も苦みも7種類の最大です。注ぐサイズも150mlの1種類だけになります。少しずつ時間をかけて飲むビールです。

項目 評価
コク ★★★★★
キレ ★☆☆☆☆
苦み ★★★★☆
酸味 ★★☆☆☆
甘み ★★★★☆

7種類のほかに、ゲストビールとノンアルコールビールもそろいます。ゲストはキリンラガービール、ノンアルコールはベルギーのビア・デザミ・ブロンドで、ベルジャンホワイトの味わいをアルコール0.0%で楽しめます。

クラフトビールが苦手な人や、車で来た人と一緒でも席を分けずに済みます。季節ごとのシーズナルも造られます。

※銘柄と数値は醸造所が2025年2月に更新したメニューによります。内容は変わることがあります。

1階で造って2階で飲む

1階で造って2階で飲む
※画像はイメージです

醸造所と客席は同じ建物の上下に分かれています。1階のKunisawa Brewingで仕込んだビールを、2階のArts & Crafts Kawachiyaで飲む造りです。

2階はテーブル席とカウンター席で40席あります。10人から20人で使える個室があり、20人から50人なら貸切もできます。

店の前にはスタンディングのスペースがあります。会計を先に済ませてビールとつまみを受け取れば、外で立ったまま飲めます。土曜は昼から開くので、昼飲みにも使えます。

2階へ上がる前に1階の醸造所をのぞけます。通りに面した面がガラスになっていて、銅色の仕込み釜と貯蔵タンクが外からも見えます。看板には「SHIMBASHI CLASSIC LAGER」と掲げられているので、店を探すときの目印になります。

自家醸造の瓶ビールはテイクアウトもできます。3本セットと6本セットが用意されていて、手土産にも持っていけます。

店舗情報

最寄りは新橋駅ですが、御成門駅と汐留駅からも歩けます。

店舗名 KUNISAWA BREWING Co.(Arts & Crafts Kawachiya)
所在地 東京都港区新橋5-31-7 Kビルディング2F
最寄り駅 都営浅草線 新橋駅A1出口から徒歩約9分/都営三田線 御成門駅・都営大江戸線 汐留駅からも歩ける
営業時間 月曜〜金曜 12:00〜23:00(L.O.22:30)/土曜 15:00〜21:00(L.O.20:30)/祝日 15:00〜20:00(L.O.19:30)
定休日 日曜日(イベント開催時は臨時営業)
電話番号 03-3431-8380
席数 40席(個室10〜20人・貸切20〜50人)
支払い方法 クレジットカード・交通系電子マネー・QUICPay・PayPay
公式サイト kunisawabrewing.tokyo

※2026年10月時点の情報です。営業時間や定休日は変わることがあります。訪問前に公式サイトで最新の情報をご確認ください。

平日の昼の営業は、公式サイトと予約ページで開始時刻の記載が違います。昼に行くときは、訪問前に公式サイトで確かめてください。

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まとめ

まとめ
※画像はイメージです

KUNISAWA BREWINGについてまとめます。

  • 1971年創業の印刷会社・河内屋が2022年に始めた、新橋で初めての醸造所
  • コロナ禍で紙の仕事が細ったことが、ビールを新しい柱に選ぶきっかけになった
  • 国内で数%しか使われていない水平貯蔵タンクで、マイナス1℃・1か月以上かけてラガーを寝かせる
  • 原料は麦芽100%とチェコ産ホップ。濾過はしない
  • 自家醸造は7種類。4.3%のピーチエールから9.9%のバーレイワインまで幅がある
  • 1階が醸造所、2階が客席。店の前では立ち飲みもできる
  • 瓶ビールは3本セットと6本セットでテイクアウトできる

印刷会社がビールを造ると聞くと、話題づくりのように響くかもしれません。実際に選んだのは、小さな醸造所にとって最も手間のかかるラガーでした。

タンクを1か月以上ふさぐやり方は、効率だけを見れば割に合いません。新橋で飲んでもらいたいのはラガーだという一点で、割に合わない造り方が選ばれています。

仕込み釜は通りからガラス越しに見えます。飲む前に少し外から眺めてみてください。

大好きなビールを、気持ちよく味わいましょう。

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